児玉洋平
(あさかめ作家兼演出家)ごあいさつ
2010年1月 更新
※2005年版「ごあいさつ」はコチラ
あさかめを始めてもうすぐ五年になろうとしています。その間あさかめは、その時々の状況や興味に応じた作品作りをし、変化をしてきました。その中で、少し前からそろそろこの「あさかめについて」という文章を書き変えなければならないと思い始めました。公演を見に来てくれるかたがたはもちろん、ワークショップに参加してくれる方々に対しても、今現在、そしてこれからあさかめがやろうとしていることをできるだけ正確に表明しなければならないと考えたからです。今から書くことは、これまでの公演や試行錯誤を踏まえて変化して結果であり、これからのあさかめの指針になると思います。
僕たちは今、物語が持つ力に興味を持っています。物語というのは、状況や関係性やキャラクターなどを全て含んだ総合的なものです。物語の中には大きな時間の流れがあります。時間の流れは物語の中に生きる人々を、まったく違った場所へ運びます。そのサイクルは現実世界の時間の流れのサイクルとある程度まで共通します。しかし、物語と現実世界の間には共通点ばかりではなく異なる点もあります。物語が空想の産物である以上それは当然のことです。現実世界に対して共通する点と異なる点をあわせもつ物語に接することによって、人は想像力を養い、現実世界に対する視点を繰り返し更新することができるのではないでしょうか。
視点を更新することによってこの世界の見方が一様でないことを知り、個人的な内面と、その外側に広がる世界との関係を同時に修復する。それは現代を生きる僕たちにとって必要なことだとあさかめは考えます。
物語を構成するために、あさかめは二つの方法を重要視しています。一つは、会話です。演劇にはもともと、会話を積み重ねることで物語を推進するというやり方があります。あさかめは初期の頃から、会話に重点を置いて作品作りをしてきました。自分が伝えたいことを精一杯相手に伝え、相手の言うことを十分に良く聞くこと。質のいい会話の基本はこの二つのプロセスの繰り返しだと考えます。それを徹底することによって、台詞の羅列に終わらない、今そこで行われている会話を作り出したいと考えています。
もう一つは、語りです。描写や状況説明を含んだ一つながりの文章を俳優が観客に向けて語りかけることで物語を進めていく。これもまた、大切にする部分は会話と同じです。伝えようとするモチベーションのベクトルが、相手役ではなく観客になるわけです。
この二つのやり方を使って物語を作っていくためには、通常の会話で紡ぐというやり方をとりません。あさかめはそれを「演劇のための小説」と呼びます。一人、あるいは複数の一人称の語り手が読み手に語りかける形の小説を書き、それを俳優が演じることで一つの物語を作り上げる。それぞれの物語には他の登場人物も現れます。それを俳優自身が一人複数役で演じ分けます。すると一人の俳優の体の中に複数の人格が同時に現れることになります。そのずれが、この「演劇のための小説」の独特なところだと考えます。いくつかある物語はそれぞれが相互に絡み合い、最終的には大きな物語を形作ることを目指します。
このやり方に対する興味は、2009年の12月に行った『いま祈るから少し待ってて』という公演から発しています。なのでこのやり方が、これからあさかめがやっていこうとしている指針であり大きな変化であると言えます。
以上が現在の、そしてこれからのあさかめについての話です。あとは実際に、ギャラリーに足を運んでいただき、ご覧になっていただくと、とても嬉しいです。
2010年1月
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