こだまのうんぬんかんぬん


あさかめの作家・演出家、児玉洋平の日常と考えたこと。



vol.8 村上春樹と散歩

2009.5.21

更新する間隔がだいぶあいてしまった。芝居の準備がかなり忙しいのだ。もちろんこの文章のことは常に頭にあって、ああこれ書こうとか思うネタもいくつかあった。でも書かなかったのは、忙しさもあるけれど、それがわりと頭を使って考えなければならないネタだったからだ。最近気づいたのだけど、この文章を書くとき、毎日が比較的平穏でのんびりしていると頭を使ってじっくり考えなければならないことを文章にしたくなる。一方で今みたいに毎日、明日の稽古はどうしようとか、美術作りの手順はどうだとかあれこれ考えてると、あんまり小難しいことを根を詰めて文章にしようと思わなくなる。すでに頭を使ってるわけで、その他のための分量が空いてないのだ。だから最近思いついた小難しい系のネタはまたこの多忙さが落ち着いてからにして、今回は、どうってことのない一日について書いてみようと思う。

ちょっとぽっかり時間が空いたので、気晴らしに青山に行った。とてもいい天気で、散歩には絶好の日和だ。僕は表参道の駅を出てまずは青山ブックセンターに向かった。のんびり本を見てまわる。本棚の配置が変わったようで、小説とか文庫の棚がどこにあるのかわからずちょっと迷った。前回も書いたけれど、今の時期の僕は小説を読む気がしない。だからそれほど触手も動かずぼんやりと見てまわる。そういえば軽い読み物が欲しかったんだと思い、新潮文庫の村上春樹の棚に向かった。小説は前から読んでたけれど、村上春樹のエッセイを読むようになったのはごく最近のことだ。実を言うと、この定期更新のエッセイを始めようと思ったのは、村上春樹のエッセイを読んだからだ。彼のエッセイはとてもゆったりとしていて、肩も凝らず面白い。自分もあんなふうにゆっくりと自分の考えを文章にしたいと思ったのだ。そんなわけでまだ読んでいない一冊を手に取る。ふと、そういえば最近ハードボイルド小説が読みたかったんだということを思い出して、ハヤカワ文庫の棚に行って物色する。高校生の頃、僕はいわゆるミステリーばかりを読んでいて、その流れでハードボイルドも、確かチャンドラー、ロス・マクドナルド、ハメットくらいは手を出したけど、あまり面白さがわからず、読むのをやめてしまった。今ではミステリーもあまり読まず、読むのはエルロイくらいになってしまった。それなのになんで不意にハードボイルドなのか、特に理由はないんだけど、なんとなく今読めば面白いかもしれないと思ったのだ。そんなこんなで棚を眺める。第一希望のロス・マクは一冊もない。仕方ないのでチャンドラーを何冊か物色。結局あまり厚くない『プレイバック』を手に取る。こんなに買って読む時間あるんだろうか、流行が過ぎて結局読まないんじゃなかろうかなんて考えながらレジに向かう途中で買いそびれていた『本の雑誌』の先月号を取って精算。店を出ようとすると、ドアのそばに村上春樹の本が山積みされていて、その中に僕が買った本も置いてある。もうすぐ彼の新作小説が出るので、フェアが行われていたのだ。すごく目立つ場所にあるのに店に入ってきたときにはまったく気づかなかった。中には村上春樹が最近翻訳したチャンドラーの本もある。実は文庫を手に取ったときも、チャンドラーと村上春樹といえば最近翻訳が出たし、それにつられてこの2冊を買ったみたいだよなと思ったのだ。そのうえ『本の雑誌』の特集が「私の新作」というテーマで作家が自分の今年の予定を発表していて、その中で村上春樹がチャンドラーの翻訳と新作小説について書いているのをチラッと立ち読みしたときに僕は見ていたのだ。なんだか村上春樹にとりつかれた、というと言い方がひどいか、呪われた、これもひどいか、まあよくわからんけどまとわりつかれた感じだ。それにしてもこの新作小説(『1Q84』というらしい。変なタイトルだ)、だいぶさかんに宣伝されている。僕はあんまり新刊本に興味がないのだけど、これはちょっと読みたいなと思ってる。タイトルが面白そうだというのが理由の一つ。もう一つは、そろそろ面白いものを読ませてくれるんじゃないかという期待があるのだ。実は個人的に、村上春樹が最近書いた小説、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『東京奇譚集』が、どれもイマイチだったのだ。だから村上春樹の面白い本というと僕の中で『ねじまき鳥クロニクル』で止まっており、だからもうそろそろ次の面白本を読ませてくれるんじゃないかと期待しているのだ。

という感じで、村上春樹に取り巻かれた、という言い方もなんか変だな、本屋散歩は終わった。なんか本当にどうってことのない一日のことでしたね。でも一言だけ言っておくと、僕はそれをとても楽しんだ。そのあとでマクドナルドに入り、コーラを飲みながら『本の雑誌』をチラチラめくっている時間も含めて。果たして『プレイバック』を僕は読むのだろうか。以下次回へ続く(嘘です)。
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