こだまのうんぬんかんぬん


あさかめの作家・演出家、児玉洋平の日常と考えたこと



vol.69 間隔    

2014.5.2

床屋に行ったついでに、昔住んでいた町をぶらぶら歩いた。床屋から最初に暮らした部屋がある場所へ行く道も、そこから次に暮らした部屋がある場所へ行く道も、すべて何年か前に日常的に行き来していた道だ。もちろん新しくできたものがあって、昔はあったのにもうなくなってしまったものもあったのだけど、もはや、どれが新しいのか、どれがただ単にあったけど気づいてないだけなのか、曖昧になってしまってる。もう少し考えれば、同じ場所にあったものがなくなって、新しくできたものがさらになくなって、今あるのは僕が知っているものより三代も四代も後のものかもしれないんだよなと気づいたりして、なんだか足元が覚束ないような気分になる。

一番驚いたのが、とても道幅が狭かったこと。いや、そんなことに驚いても仕方ない。僕が暮らしてたときからここはそうだったのだ。救急車だって消防車だって入ってくるのに骨が折れる。引越し屋さんだってうんざりした顔をしながらトラックをアパートの前まで運転してきたのだから。けれどもうそんな体感をすっかり失ってしまったんだろう。よく、小さい頃暮らしていた場所に大人になってから行くと、家も街並みも記憶していたのより随分小さくてびっくりするという話を聞く。僕も経験したことがある。けれど僕がこの町に住んでいたとき、もう十分大きく成長していたのだから、そういうこととは違う。
もう少し前にこの町を歩いたときは、そんなことは感じなかったから、それから今までのどこかで、僕の中のこの町の道幅の狭さの間隔がすっかり消滅したのだろう。この道を自転車で通ってたんだよなあとか、いちいち感心しながら歩く。

帰宅して近所をジョギングした。さすがに一週間以上間があくと、しばらく下腹がずきずき痛むし、足も重い。次はあんまり間隔をあけないようにしなくちゃなあと、ぜえぜえ息を吐きながら思う。

帰ってシャワーを浴びてから、寒い季節の間は閉めきっていた窓を久しぶりに開ける。換気扇をつけると、いい風が部屋の中を吹きぬけていく。
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