こだまのうんぬんかんぬん


あさかめの作家・演出家、児玉洋平の日常と考えたこと



vol.61 毎度のこと    

2013.5.18

竹橋に、フランシス・ベーコン展を観に行ってきた。すごく天気のいい日で、ジャケットを着ていったら暑く、今年になって初めて、半袖シャツで外を歩くことになった。裸の腕に直接風が当たる感触は、もう何遍も味わってるのに、すごく久しぶりに触ったものみたいに、懐かしい感じがした。ああこういうことを、毎度繰り返してきたんだなあ、と思った。

展覧会はまずまずの混みぶりだった。印象派展を観に行ったときみたいにめちゃくちゃ混んでて、フェルメールの小さな絵を見るのに何重もの人の層の向こうから背伸びしなきゃなんないなんてことになってたら困るなあと思ってたから、それに比べたら随分人の姿は少なくて、それでも結構多いけど、とりあえず安心。結構若い人が多かった。美術系なのかな、派手な格好をした学生さんとか、カップル、若い夫婦。もちろん年配のお客さんもたくさん。中にはベビーカーを押して赤ちゃんを背中におんぶしている夫婦の人たちもいた。きっと忙しい子育ての合間を縫って観に来たんだろうね。それにしてもこの展覧会、結構暗いというか、グロテスクな絵が多いから、小さい子供が目にしたらひきつけを起こしたり、ゆくゆくは眠るたびに夢に出たりして苦しめられたりしちゃうんじゃないかと心配したけれど、そんな必要はまったくなし、赤ちゃんはお父さんの背中でぐっすり眠っていたのでした。

絵はとても面白かった。何が面白いのか言葉にするのは難しいんだけど、それがきっと一番の面白さなんだろうな。じろじろ絵を見ているうちに、頭の中が真っ白になる。それまでの言葉とか知っていることがいったんリセットされる感じ。で、新しい、見たことのない何かが、もぞもぞと起き上がろうとするのをみつめている。
観終わって、何枚かポストカードを買った。これってでも不思議だよね。一応はがきの形をしてるからそれに手紙を書いて郵便で送ったっていいわけだ。でも例えばこのフランシス・ベーコンの、曖昧な顔が苦しそうに口を開けて叫んでるような絵のはがきを送られたら、きっともらった人は、「どうしてこんな絵をわざわざ私に送ったんだろう」って混乱するだろう。「もしかしたらひどい苦しみや悩みを抱えているのかもしれない」って心配になって駆けつけてきちゃうかもしれない。だから僕はくれぐれもこのポストカードで手紙を出すのはやめようと思った。

美術館を出て大手町の方にぶらぶらと歩く。本当に天気がよくて皇居のまわりをジョギングしている人たちも気持ち良さそうだ。段々と背の高いオフィスビルばかりになってくると、びしっと決めたスーツ姿の人たちが早足で行き交っていて、おお、なんだかやっぱりここは東京の中心なんだ、という気持ちになってくる。おのぼりさん気分。

途中休憩しながら丸の内の丸善にたどり着く。特に目的もなく棚の間をぶらぶら。面白そうな本。難しそうな本。本がたくさん。当たり前だけど。

なかなかいい誕生日でした。
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