こだまのうんぬんかんぬん


あさかめの作家・演出家、児玉洋平の日常と考えたこと



vol.51 とにかく懐かしい     

2011.8.6

非常用とかじゃなくて、日常生活でラジオが聞きたいなあと少し前から思っていて、この間とうとう買った。電器屋に行ってラジオのコーナーをよくよく見てみるということを、今までほとんどしたことがなくて、結構知らないことがあって面白かった。いろいろ見ていくうちにわかったのは、純粋なラジオのみというのはそれほど種類はなくて、いくつかの小さなやつ、おじさんが缶ビール片手に競馬中継なんか聞いているようなやつを除けば、ラジオの他にテープやらCDやらも聞けるやつのほうが種類もあるし値段も安いということだ。
いざ買おうと決めてから、結構長いことどれにしようか迷い続けた。同じところに二度も三度も足を運んだり、街に出るたびに電器屋に入ってはそれほど代わり映えのしない棚を眺めてああでもないこうでもないと考え続けること三ヶ月ほど、ようやく決心した。僕が買ったのは、コイズミという聞いたことのないメーカーのプレイヤーで、ラジオの他にCDも聞ける。色は白で薄っぺらで真四角のデザインでわりとかわいらしい。何をそんなに悩んだかといえば、そんなに高いものは買いたくないし、でもあんまりよく聞こえないとかだとやだし、あとできればあんまり大きくないほうがいいしそか、そのへんのうまい按配を探っていたのだ。せっかく買うんだから、気に入らなくて使わなくなっちゃったっていうのはもったいないから。

さて、そんなわけでラジオを聞く生活をスタートさせたわけだ。ラジオを習慣的に聞く生活というのは多分高校生のとき以来だと思う。受験勉強をしながら聞いてた。だからなんとなく懐かしい気もする。そんな気なんてしない気もする。個人的には、ごく穏やかなトーンで、それほどやかましくなく喋る感じが、僕のラジオの気に入っているところだ。一生懸命聞くというよりも、ボリュームを絞って、寝る前に本でも読みながら聞くというのが基本形で、時々気になる曲や話題が流れると耳をそばだてるという感じだ。多分誰かがずっと喋ってるという感じが好きなんだと思う。

そんな我がラジオだけれど、副次的な魅力が備わっていることに最近気づいた。既に書いたようにこれはCDも聞けるようになってる。まあラジオだけじゃなんだからってことで一応つけといたという感じで、僕の目的はあくまでラジオだったから、そんなに注目してなかった。ところがこれで音楽を聴いてみると、なんだかとてもいいのだ。はっきり言って音は良くない。でも聴いていると懐かしいような気持ちになってくる。例えてみると、子供の頃、テープに録音しておいたのを、車のカーステレオで再生して聴いていたときのあの音に近い気がする。全然クリアじゃないし細かい音は割れてうまく出てない気がするけど、このプレイヤーで音楽を聴いていると、なんだか妙に気分がいい。ちょっといいなあこれはと思った僕は、いくつかのCDを差し込んでみた。最初にこの良さに気づいたときに聴いていたのがスピッツの『とげまる』で、なんか他にもこれと相性がいいやつがありそうだぞと考えた結果、Dr.Johnの『Gumbo』を入れてみたら陽気な感じがやっぱりよかった。逆に意外にそんなにでもなかったのがキセルの『SUKIMA MUSICS』で、彼らの素朴な声と音楽がマッチするかなと思ったけれどいまいちぱっとしなかった。キセルの、うまく例えられるかわからないけれど、古いレコードを聴いているような繊細な感覚が、このプレイヤーに入れるとほとんど聴き取れないほど弱々しくなってしまうみたいだ。他にはくるりの『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』も気に入ってしばらくの間何度も何度も繰り返し聴いた。
他にも相性のいい音楽はある気がする。例えばビーチボーイズとかを大きめの音で聴いたら海の家でずっと流れてるサーフミュージックみたいになっていいんじゃないだろうか。なんかそういうのんびりした夏休みみたいな、多少感傷的な感覚を誘い出してくれる機械だ。いい買い物をしたなあと、扇風機に当たりながら一人悦に入る夏の夜でした。
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