こだまのうんぬんかんぬん


あさかめの作家・演出家、児玉洋平の日常と考えたこと



vol.45 未来に語りかける     

2011.2.25

国立新美術館に『シュルレアリスム展』を観に行った。知識としても、そういうふうに分類される芸術作品や作家がいることは知っていたし、マグリットの絵は教科書で見たことがあったし、だいぶ前にダリ展を観に行ったことがあるけれど、特別、シュルレアリスムという運動に興味があったわけじゃないけれど、駅に貼られたポスターに印刷された、アンドレ・ブルトンの言葉が、なんだかちょっと素敵だなと、観に行ってみることにした。
ブルトンの名前も何年か前に、ジュリアン・グラックの『シルトの岸辺』を読んだときに、解説に、グラックに大きな影響を与えたシュルレアリスムの巨人として書かれていて、それで初めて知った。その紹介も気になったし、本屋でも岩波の棚を見ると『ナジャ』なんかが並べてあって、ちょっと興味をそそられていたんだけど、なんだか難しそうな感じがして、自分なんかが手を出していいものなんだろうかと、ずっとためらい続けていた。
まあそういうわけで、いい機会かと、滅多に行かない、教科書に載っているような絵を観に行って来たのだ。

会場は、なんとなく予想はしていたのだけど、結構混んでいて、意外に、というのか、若い人たちが多かった。前、印象派の展覧会を観に行ったとき、リュックを背負ったおじさんやおばさんでごった返していたことがあって、もしや今回もそうかもしれぬと思っていたのだけど、若い人たちのほうが、シュルレアリスムに興味があるのかもしれない。なんとなく納得できるような気がする。
展示は、時系列に沿って運動が始まって終わっていくまでを、絵やオブジェと、雑誌やパンフレットといった資料を使って説明してくれていた。
知識のない、素人の僕がそれを観て行くとどんな感じになるか。まず最初は、あんまり入り込めない。現実を越えた奇妙な絵に、なかなか馴染めないのだ。でもそのうち、慣れてくると、いろいろ感じ取れるようになってくる。何かを感じることのできる絵と、どうにも伝わってこない絵というのが出てくる。そうやって進み、いくつかの映像を見たりしながら進むうちに、今度は少し飽きてくる。なにしろ展示されているのは膨大な数の作品だ。そのうえすべて、ある一つの考え方に貫かれた作品ばかりだ。そのうち、どれも同じように見えてくる。専門的な知識があれば違いがあるのかもしれないけれど、僕にはよくわからない。それを展示を計画した人も予想していたのか、ちょっと飽きてきたな、と思うと間もなく、展示は終わる。
出口の外では図録やグッズを売っている。いいなと思う作品はあったけれど、すぐに忘れてしまうので、ポストカードを買った。

思ったことはいくつかあって、一つは、シュルレアリスムという運動が、当時かなりの熱意を持って進められていたのだなということだ。それは、当時の展覧会のパンフレットや写真を見るとよくわかる。彼らは本気でこの運動を推し進め、なおかつ世界を変えようとしていたのだろう。なんだかまぶしいような気持ちになった。
もう1つは、そうして進められた有名な運動の一部であることを越えて、、今の時代の、例えば僕という人間にまで何かを感じさせるような絵というのは、やはりそれほど多くはないのだなということだ。個人的な好みで言えば、たくさんの作家の中で、僕の心に強い印象を与えたのは、ジョアン・ミロと、アンドレ・マッソンだった。僕はこの二人の絵を初めて見た。ミロは、中心に描かれている抽象的なものよりも、その背後に広がっている色に心を惹かれた。それは頭を使って考えたものじゃなくて、その外側に広がっている広々とした世界を僕に感じさせた。アンドレ・マッソンの絵を観ているうちに、これはマッソンだな、と当てられるようになってきた。なんだかそういう、マッソンらしさみたいなものが、ちょっと面白かった。それは、あくまで素人の意見だけれど、おおらかさみたいなものだ。色を塗ってたらはみだしちゃったけど、それでもいいか、みたいな、かなり乱暴な言い方だけど、そういうおおらかさみたいなものが、その時代を生きていない、僕にも感じられたような気がする。

運動が盛んだった当時、それに参加している人たちに差はなかったはずだ。同じ志を持った若者たち。けれどそういう大きな時代の流れの中で作り出されたものが、その時代に限らず、次の世代にまで心を打つものとしてあり続けるのは本当に難しい。時代に影響を受けずにいるのはほとんど不可能だ。時代の欲求で生み出された作品は数多いだろう。その中で、どうすれば時代の壁を乗り越えられるか。その先におそらく生まれてくるだろう人々に直接語りかけることができるか。
よくわからないけれど、多分、自分に聞いてみるしかない。過去も現在も未来も、生きているということでは変わらない人間としての、自分に。
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