こだまのうんぬんかんぬん


あさかめの作家・演出家、児玉洋平の日常と考えたこと



vol.29 振り向いてくれない  

2010.3.13

雪が降るほど寒くなったり、反対にコートなんて着てられないほど暖かくなったり、日によって極端な天気になることが多くなってきたけれど、きっと徐々に春に近づいてきているのだろう。春はなかなか好きな季節だ。冬は頑固で長いから、3月にもなるともうそろそろ冬はうんざりだよという気持ちになっているところへ暖かくなると、本当に見も心も軽くなったような気持ちになる。散歩に出たって寒くないし、桜の花だって咲き始める。僕は特別に桜が好きということもないのだけれど、それでも夜月明かりや街灯に照らし出されたピンク色の花を見ると、不思議な気持ちになる。確かに桜の花を見ていると、心を惑わされてしまうのもわかる気がする。

ということで基本的に春がやってくるのは歓迎なのだけれど、一つだけ喜べないことがあって、それは花粉症だ。多分たくさんの人がそうだと思うのだけれど、この時期というのは花粉症との戦いの季節である。僕が花粉症になったのは確か高校生の頃で、それから年々ひどくなっている気がする。あまり研究熱心なほうではないので、花粉症に何が効くとか、マスクをしたほうがいいとか、そういう対策はあまり練らない。市販されている薬に幸運にも効くものがあったので毎年それを飲むだけで済ませている。人によってはちゃんと病院に行ったほうがいいとか、花粉症の季節になる前に予防で飲み始めたほうがいいとかいうけれど、そういうことはあまりせず、ある日急にくしゃみが出て止まらなくなると、ああそろそろあれだな、と思って薬を買ってくる。そうするとすぐに止まる。薬っていうのは本当にすごいと思う。体の中のことだから何がどう作用しているとかはわからないけれど、どこかにあるくしゃみボタンをオフにしたみたいにぴたっと止まる。副作用はない。去年の春にその薬を切らせてしまって、仕方がないので別の市販の薬を飲んで吉祥寺に行ったことがある。そのときはもう本当にひどかった。薬を飲んでいるはずなのにくしゃみと鼻水がまったく止まらない。それどころか頭が朦朧として視界がかすむ。眠くて眠くて仕方ない。ボロボロの状態でジブリの森美術館へ行ったのだけれど、当然ちゃんと見ることはできず、子供たちが走り回っている中でベンチに腰掛けてうつらうつらしていた。これじゃどうしようもないから町の薬局でいつもの薬を探したんだけれど、どこに行っても見当たらない。どうやら特定の薬局でしか売っていない薬だったらしく、僕はもうろうとしたままで町をさまようことになってしまった。結局紅茶屋さんに入ってふかふかのソファに腰掛けた途端眠ってしまった。それ以来愛用の薬は絶対切らさないように気をつけている。それにしても不思議なのは、薬によってそんなに効き目が違うのかということだ。だって目的はどれも一緒のはずで、それなのに一方は眠くならず、一方は眠くて仕方ないというのはなんだか不可解だ。そういうことに詳しい人からすればそんなの当たり前なんだろうけれど、僕にとってみれば、医学は進歩したというけれど花粉症一つままならないんだから、まだまだわかっていなことはたくさんあるんだなという気がする。

時々はマスクもする。このとき気まずいのは、人によっては心配そうに、風邪ですか、と聞いてくることだ。そういうときは僕はなんだか申し訳ない気持ちで、花粉症です、と答える。別に申し訳なく思うことはないんだけど、その心配がもったいないというか、期待に添えなくてごめんなさいというか、そんな気持ちに不思議となってしまう。まあ花粉症は花粉症でかかっている人にとっては大きな問題で結構苦しかったりするから、それに対して心配してもらってもまったく構わないのだけれど、なんとなく一般的に、なんだ花粉症かという認識が、僕も含めてあるような気がする。それはとにかく命にはまったく関わりがないというのが大きいと思う。大体くしゃみと鼻水が止まらないという症状自体がなんだかちょっと間が抜けていることは否めない。かかっている僕ですらそう思う。そういうところが、花粉症じゃない人に花粉症の辛さが伝わりにくい要因だと思う。

まあそんなこんなで春は辛い季節でもあるわけで、今年も薬を飲み始めたらなんだか効き目が薄くなってきた気がするので、そろそろ事前の対策が必要かななんて思い始めている。甜茶を飲んでいたら全然花粉症にならなかったという話も聞いたことがあって、僕も飲んでいたことがあるのに全然効かなかったのはどういうことなんだろうと思ったりするけれど、そうやって花粉症にいいように振り回されているような感じが、どうしても振り向いてくれない好きな人を相手にしているみたいで、なんだか腹立たしいなあと思ったりするのだ。
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