こだまのうんぬんかんぬん


あさかめの作家・演出家、児玉洋平の日常と考えたこと



vol.28 足湯についての宣言  

2010.2.28

友達何人かとお酒を飲んでいるときに温泉の話になった。日本人はみんな温泉が大好きだと言うけれどそんなことはない。普通のお風呂がただ広くなっただけなんだから銭湯だっていいし、もっといえば別にお風呂は広くなくたっていいという意見も結構出た。そうかと思えば、あんなに広々としたところでお風呂に入れるなんてものすごく幸せだという人もいて、同じ日本人でもこうまで意見が違うのだなとちょっと興味深かった。

僕はどうかといえば、温泉は大好きだ。たまに旅行なんかに行くと、泊まる旅館が温泉宿かどうかがとても気になる。温泉だった場合それだけでちょっとうれしいし、温泉じゃない場合それだけでなんだか残念な気持ちになる。宿に泊まればできる限り温泉に入ろうと思う。着いてすぐ入って、ご飯食べた後に入って、朝起きたら入る。それでけ入っても、もっと入れる気がして不安だ。でも温泉に入るというのはこれが結構体力がいる。気持ちはいいんだけど入るたびに体がぐったりするし、のぼせてしまうからそんなに長くは入っていられない。出るときにはなんだか惜しい気がする。もっと気持ちよさを得られるんじゃないかという気がしてしまう。最初に書いた温泉それほど好きじゃない人に言わせればそんなにぐったりしながらなんで何回も入るんだということになるのだろうけれど、気持ちいいから、と開き直るしかない。気持ちよさに筋の通った理由なんてないのだ。

そんな感じで話しているうちに、今度は足湯の話になった。浅い洗濯場みたいなところに溜められた温泉に足だけつっこむあれである。温泉好きじゃない派は当然否定的だ。温泉さえ好きじゃないのに足だけつけるなんて理解できない。まあそうだろう。温泉好きの中でも同じ意見の人もいた。全身浸かるのならともかく足だけつけたって別に気持ちよくない。そんなふうで足湯が好きな人は少数派だった。

僕も以前は同じ意見だった。つまり、足湯なんてどこがいいんだろうと思ってたわけだ。それどころかなんだかインチキ臭いなとさえ思っていた。なぜかというと、足湯は大きな施設を作る必要がなく比較的手軽なせいか、温泉地に限らずテーマパークとか駅前とかでも見ることができて、そういうところがなんだか軽薄に感じたのだ。みんな気持ちいい気持ちいいって入ってるけど、温泉なんてそんな手軽に入るものじゃない。そんなふうに思っていた。そんなあるとき、旅行で温泉に行った。僕はだいたい旅行に行くとできる限り自分の足で歩く。ハイキングは好きだし、温泉地などは都会じゃないからバスが来るのも間遠で待っているのもまどろっこしい。だからそのときもあちこち歩いて見てまわっていた。そろそろ帰ろうということになって駅に向かうと、駅前に人が集まっている場所がある。よく見るとそこには足湯があった。いつも通り、僕はそれを横目に駅に入っていこうとした。でも連れの人がちょっと入ってみようと言うので仕方なく入ってみることにした。湯船の縁に腰掛けて靴下を脱ぎ裾をまくる。こういうところもなんだか面倒臭そうで敬遠していたんだけどまあ経験だと思って素直に用意して湯船に足を入れた。そしたらものすごく気持ちいいのだ。足の先からじわじわと温かみが体中に広がっていくのはもちろんだけど、長く歩いて得た足の疲労がみるみるとれていく。足の筋肉のこわばりが柔らかくなっていく。僕はしばらくの間そこから足を抜くことができなかった。まさに至福の時間だった。人も集まってきてあんまりい続けるのはまずいかなと思って出るときも非常に離れがたかった。それ以来僕は足湯を見るとなるべく入るようにしている。そのうち足湯が駅前だとか街中にある理由がなんとなくわかってきた。手軽だというのはもちろんあると思うけど、例えば寒い冬の日に、ちょっと入って暖まっていくのに最適なのだ。足をつけていると、体はすぐにぽかぽかになってくる。温泉とは偉大だなあとつくづく感心する。

でもこういうのは話をしてもあんまり伝わらない。まあそりゃそうだろうなと思う。寒い日に長く歩いて疲れたときに素晴らしくいいんだって言ったってイメージするのは難しいだろう。というわけで僕は勝手に足湯最高と宣言しようと思う。家でやろうとまでは思わないけれど。ちなみに僕は家で入るお風呂も好きだ。ただ早風呂。十分も入っていられない。でも最近はちょっと考えを改めて、ゆっくりじっくり入るようにしている。何事もちょっとやってみると意外に良いということが、僕の場合結構多いからだ。実際のんびりとお風呂に入るのは、なんだか一つ一つの作業を丁寧にやれてちょっとした充実感が得られてなかなかいい。
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