こだまのうんぬんかんぬん


あさかめの作家・演出家、児玉洋平の日常と考えたこと



vol.27 冬の祝福  

2010.2.19

2月に入ってから毎日寒い寒い。あんまりよく覚えてないけれど、東京でこんなに雪が降ったのはそうないことじゃないだろうか。我が家の暖房設備はコタツが一つあるきりだ。だから下半身はだいぶ暖まっても、その先の上半身は冷たい空気にさらされているから、夜になるとなかなかコタツから出られない。そうなると行動もだいぶ限定されることになる。なんだか自分がものぐさな人間になったような気がしてくる。そうでなくてもものぐさなのかもしれないけれど。

外に出ることも心なしか少なくなったようだ。毎日散歩にでかけていたのが、週の半分くらいになりつつある。外を歩いていると風が本当に冷たい。ポケットに手を突っ込んでできるだけ体中の筋肉を収縮させて小さくなって歩いている。でもそうやって寒い中を縮こまって歩くのが、僕はそんなに嫌いじゃない。そうやってひどい寒さの中歩いていると、それはそれでなんとなく安定した心持になってくるし、こんなにまで寒くなるのかって冬をほめてやりたい気持ちにさえなってくる。この間はそうやって歩いているうちに、なんだか不思議な気持ちになってきた。今は気温も十度をきって厳寒の世界だけど、半年もしないうちに今度は着ている服を全部脱ぎたくなるような酷暑の季節がやってくるのだ。僕らは日本という国に住んでいてそんなこと不思議でもないけれど、もしかしたらそれは面白い体験なのかもしれない。最近は温暖化とかの影響で昔ほど季節の移り変わりをビビッドに感じにくくなっている気がする。そう思えば実は地球は寒冷化に向かっているのだという話も耳にしたりして、なんだかよくわからないけど、とにかくどちらにしてもこれからも季節ごとの変化をちゃんと感じられるといいなあと思う。

そんな日々の中で、最近楽しみなのは冬季オリンピックを観ることだ。僕はスキーなどやったこともないし、スケートだって小学生の頃は毎年行ってたけどもう20年近くやってない。だからこれまで夏のオリンピックはわりと観ていたけど冬季オリンピックはそれほど関心がなかった。でも今回は違って、テレビで放送がやっていればなるべく見るようにしている。多分一番最初に見た女子モーグルが面白かったのがよかったのだと思う。あの競技を見ていると、派手にくるくるまわるジャンプにどうしても目がいってしまうけれど、実は雪のコブをどれだけ上手にターンするかが得点としては大きいらしいし、あとはコースを滑りぬけるタイムも重要になってくる。最近はタイムが格段にあがってきているらしく、実際オリンピックのレースを観ていてもタイムが良い選手が高い得点をもらっている。そうなってくると上位の選手は皆良いタイムを目指してものすごいスピードでコースを駆け下りようとする。そうしないと高い順位につくことができない。もちろんそれは危険な賭けで、実際優勝候補の選手が何人もスピードについていけずに転倒する姿が続いた。それでも勝負を避けるわけには行かない。スタートラインについてゴールを見下ろす選手の表情がとてもいい。ここまで積み上げてきたものをこの一瞬に書ける緊張と不安。この人たちは本気なのだ、ということがひしひしと伝わってくる。

あと楽しみなのはカーリングだ。多くの人と同様に、僕も前回のオリンピックではまったくちだ。残念なのは前回で結構覚えたルールや駆け引きのやり方をこの4年間ですっかり忘れていることだ。解説の人が説明してくれるのを聞きながら思い出したりしている。やはりこのような競技はそれほど一般的でもないし解説の人の説明が重要だと思う。前回の人はとてもわかりやすく説明してくれたからはまることができた。今回の人も詳しく丁寧に説明してくれている。カーリングはやっぱり戦略と駆け引きが断然面白い。相手のミスに乗じて攻めるとか、石を微妙にカーブさせながら投げて相手の石の裏に隠すとか、そういう微妙なやりとりはもしかしたら日本人に向いているのかもしれないと思ったりした。

青森にカーリングを普及させた男性がインタビューを受けていたとき、「白い季節をどうやって楽しむかが青森県民にとって重要な命題だった」と語っていて、そのときはなんだかおおげさな物言いだなとおかしくなったのだけど、よく考えたらそれはそれほど大げさなことではないのかもしれないと思い直した。おそらく僕の想像をはるかに上回る雪の壁にまわりを囲まれて長い間身動きが取れない。そうやって自由を阻害されたときに鬱屈しないようその脱出口を考え出すのはきっととても大切なことなのだ。

それにしても冬のオリンピックが夏のオリンピックと最も違うところは、競技場の向こうに大自然が見えるということかもしれない。選手が懸命に滑り降りてくるその背中には、雄大な山々が連なっている。なんだか神様に祝福されているみたいだ。
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