こだまのうんぬんかんぬん


あさかめの作家・演出家、児玉洋平の日常と考えたこと



vol.24 真夜中の逃走  

2010.1.8

正月の夕方道を歩いてたら、急に鬼ごっこがしたくなった。別に理由はないけれど、道を元気よく走る子供たちの姿をたくさん見たからかもしれない。したくなったからと言ってすぐにできるようなものじゃないから、そのときはなんとなくスキップしたりして我慢したけれど、ああ随分長いこと全力で走り回るような遊びをしたないなあと思った。普通に暮らしているとそういう機会はまずない。たまに街中のグラウンドで野球やサッカーをしている人を見ると、友達を誘って何かやりたいなと思うけどまず実現しない。

一番最近鬼ごっこ的な遊びをやったのは大学生の頃だったと思う。正確に言うと僕がそのときやったのはケイドロという遊びだ。地方によって言い方はドロケイになったりするらしいけど、要するに、警察と泥棒の2チームに分かれて、警察は泥棒を捕まえ、泥棒は逃げながら捕まった仲間を助け出すというゲームだ。誰が言い出したか忘れたけど、そのとき急に学校でケイドロをやったら面白いんじゃないかという話になった。僕が行っていた大学は敷地が広大で、校舎も広いのがいくつかあったのでこういう遊びにはうってつけだった。そうはいっても学生がうじゃうじゃいる昼間にはやれないから、人のいない夜中にやろうということになった。僕は演劇サークルに入っていたのだけど、校舎のある場所の窓が常に開いていて、何時でもそこから出入りできるから、真夜中まで芝居の稽古をしたりしていた。もっとあとになると警備が厳重になって夜十時ごろになると警備員さんが来てみんな追い出された。まあ安全だとかのために取締りを強化したんだと思うけど、やっぱりつまらないし不自由した。今考えればだいぶゆったりした時代だったのだ。

まあそんなわけで真夜中に僕らは集まった。いくつかある演劇サークルの人たちにも声をかけて大体二十人から三十人くらいいただろうか。このゲームをして泥棒になると大体タイプが二つに分かれると思う。ずっと歩き回って隠れないタイプと、隠れ場所を見つけてそこにじっとしているタイプ。僕は圧倒的に前者だった。というか隠れるということがつくづく苦手だった。体が大きいせいか隠れるのにも苦労したし、それ以前に隠れる場所を見つけるのが下手だった。それがめちゃくちゃ上手い人もいて、こういう人はよくもまあこんなところを見つけたなというところに隠れていて、制限時間ギリギリで仲間を助けにさっそうと現れたりしてヒーローになるのだ。

個人的に僕はこのゲームの楽しみは警察に見つかったときのスリルだと思っている。薄暗い廊下を歩いて曲がり角まで来る。これを曲がったところにもしかしたら警察がいるかもしれない。心臓をバクバクいわせながら角を曲がる。こういうときは大抵誰もいない。警察と鉢合わせるのはいつでも何の気なしに角を曲がったときだ。あのときのスリルはたまらない。大急ぎでUターンして全速力で逃げる。警察のときも同じだ。逃げていく背中を追いかけて全速力で走る。

もう一つ楽しいのはやっぱり牢屋での攻防だ。警察は捕まえた泥棒を一箇所に集める。そこが牢屋だ。捕まっていない泥棒がタッチすれば、捕まった人たちも生き返って逃げることができる。そうならないように、警察が一人か二人看守役をしている。そのときは牢屋は外の踊り場みたいなところだった。いろいろなところに面しているからあらゆる場所から救出が可能なわけだ。僕は隠れるのが下手なので必然的に早く捕まって長いこと牢屋にいるのだけど、ふと見ると、少し離れたところから隙をうかがっている人がいるのに気づく。そうするとそれとなく、それこそ口笛でも吹きながらタッチしやすい場所へ移動する。他の捕まってる人たちにもめく場差で教えてそちらに集まる。警察が他に気を取られているときに一気に助けに来る。そしたら再び捕まらないように全力で逃げる。窓とか飛び越えたりして走り抜ける。このときのカタルシスときたらない。まあもっとも、逃げるすぐ先に警察がいて少しも逃げられず捕まるってこともしょっちゅうだったけど。

ゲーム自体好きだしとても楽しかったけど、やっぱり真夜中に無人の建物を走り回るってのがすごく楽しかったように思う。ああいうことは今となってはまずできない。でもまた隙があれば、どこかでやりたい。まあ隙ないだろうな。

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