こだまのうんぬんかんぬん


あさかめの作家・演出家、児玉洋平の日常と考えたこと。



vol.20 体重と人生  

2009.11.8

久しぶりの友人とご飯を食べたときのこと。彼とは時々顔をあわせはするのだけど、いつもゆっくり話をする時間がなくて、よお、と挨拶するくらいで終わってたから久々にゆっくり話しでもするかということでその日は会うことになった。先に着いたのは僕の方で、メニューを見ながら待っているとそのうち彼も来た。彼はテーブルに着いて上着を脱ぐなり、「児玉、太った?」と言った。

そう言われて僕は面食らった。と言うのも、僕は生まれてこのかた「太った?」なんて言われたことがなかったからだ。この文章でも何度か書いたけれど、僕はちょっと普通じゃないくらい痩せている。具体的な数字を並べると、身長は183センチあるのに対し体重は55キロから58キロの間を行ったり来たりしている。体脂肪率は大体10パーセントを切るか切らないかというあたりで、まあわかりにくければ、芸人のアンガールズの二人を思い浮かべてもらえればわかりやすいと思う。だから僕はこれまで、こんなことを言うと大勢の女性を敵に回しそうな気がするけれど、太った?と言われたどころか、太ったことだって一度もないのだ。だから久しぶりの友人にそんなことを言われても、そんなことあるわけないから話半分で聞いてたし、言った当の友人だって僕が痩せぎすキャラだってことを長い付き合いでよく知っているから、言ってるわりにそんなこと全然信じてないふうですぐに話は別の話題になった。

けれど、なんだかそのことが心に引っかかっていた僕は、その夜家に帰ると体重計に乗ってみた。表示された数字を見て僕はびっくりした。なんと64キロもあったのだ。僕は信じられなくて何度も体重計に乗り直した。けれど何度乗っても同じだった。いつの間にか僕は10キロ近く太っていたのだ。

この結果に僕は本当に驚いてしまったのだけど、よく考えてみればその兆候はあったのだった。一つは、最近細身のズボンのウエストがきつくなっていたことだ。結構力を込めないとボタンが締まらなくなっていて、締めたあともなんだかお腹が苦しい。でももともと比較的きつめのズボンだったからそんなものかとあまり気にしていなかった。二つ目は、大便が出にくくなったことだ。何回か前に書いたけれど僕はいつも下痢気味で、だいたいお腹の中にあるものは外に出てしまうし、それが今のやせ細った体型を使った原因の一つであったと思うのだけれど、最近トイレに行ってもなんだか出し切っていないという中途半端な感覚があったのだ。その出切ってないものが体の中に溜まってるとしたらどうなっちゃうんだろうなんて思ったりしていたのだ。
その他にもあれやこれや思い当たる節がある。つまり僕は太るべくして太ったのだ。

たかが何キロか増えただけで何を騒いでいるんだと言う人もいるだろう。それに体重が増えたものの、身長を考えればまだまだ標準的な体格に比べれば痩せていると言えるだろう。でも、僕にとっては非常にセンセーショナルな出来事だった。今まで60キロを超えなかった人がそれどころかさらに上にのぼってしまったのだ。それだけ急激に増えるとなんだか体の組成自体が変わってしまったような感じさえする。だいたい、この体つきで僕はこれまでの人生を生きてきたのだ。僕の人生はこの体つきで規定されてきたと言ってもいい。お腹が冷えやすいのも、プールの時間すぐに寒くなってバスタオルにくるまって見学を余儀なくされたことも、その結果泳げなくなったことも、全部この体のせいなのだ。洋服だって丈にあわせれば肩幅がぶかぶかで、肩幅に合わせれば丈がつんつるてんになってしまい、体にあった服を探すのに一苦労だった。そんなこの体ともさよならというわけだ。こんなふうにマイナスばかりあげつらったけれど、僕はこの体を結構気に入っていたのだ。というかアイデンティティを構成する大事な要素の一つだった。それがある日急に変化してしまったのだ。これは驚かずにはいられない。

こうなったらもうすっぱり諦めて、贅肉を筋肉に変えていく方向で努力してみようか。筋肉質児玉、というのは自分的にとても新しい。しかしそれにはおそらく多少根性と言うものが必要になり、根性もまた、贅肉と共に僕には足りなかったものだからどうなることやら。とにかく今後の推移をよく見ていようと思う。
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