こだまのうんぬんかんぬん


あさかめの作家・演出家、児玉洋平の日常と考えたこと。



vol.15 本屋と図書館  

2009.8.26

小学生の頃から本を読み始めて、それ以来図書館にはお世話になっている。小学生の頃は近所の市民センターの中に区立の図書館が入っていて、二週間に一度(貸し出し期間が二週間だった)自転車に乗って通っていた。その図書館で僕は江戸川乱歩の少年探偵団シリーズや、ホームズやルパンやズッコケ三人組シリーズなどいろいろな本を借りて読んだ。並行して学校の図書館にもよく行っていて、ドリトル先生なんかを借りて読んだ。その町から引っ越して中学に入学してからは、部活が忙しくて本を読む暇がなかったのと、近くに本がたくさんある図書館がなかったのでご無沙汰していた。高校生になって比較的いろいろな場所に自分で行けるようになると、他の地域の大きな図書館に学校帰りに寄るようになった。よく行っていた図書館は二週間で十冊まで借りられたので、一月に約十五冊というハイペースで読むようになった。一番密に図書館にお世話になったのはその頃で、読書量の減少に伴って付き合いは減ってきたけれど、それでも今でも相変わらず図書館にはお世話になり続けている。

一番好きだったのは大学の図書館だった。レポートの資料を探しに行ったり、暇なときは新聞や雑誌を読んだりしていたけれど、置いてあるのは専門書ばかりだったからそこで読んだ本はほんとうにわずかなものだ。にもかかわらず好きだったのは地下室があったからだ。その図書館の地下室は確かいくつかのジャンルの本と雑誌とバックナンバーが置いてあるだけだったから、人はあまりいなくて閲覧席にもちらほらと人の姿が見えるだけでほとんど誰もいなかった。そのうち捨てられたような寂れた雰囲気が僕は好きだった。だからたまに用もないのに地下室に下りていって、本当は禁止されているんだけど友達と馬鹿馬鹿しい映像を撮ったりして遊んだ。

一度本好きの友達と、本屋と図書館とどちらが好きかという話をしたことがある。本に関心のない人にはもう本当にどうでもいい設問だと思う。その友達は本屋のほうが好きだったけど、僕は断然図書館の方が好きだ。その理由はいくつかあるもちろん本をタダで読めるのはポイントが高い。でも僕の場合、新刊をすぐに読みたいという欲求はほとんどないし、物としてハードカバーがあまり好きではなくて文庫本のほうがかわいらしくて好きだから値段についてはそんなに意味がない。僕が図書館が好きなのは本の並べ方が無機質だからだ。最近はわりと図書館員の人のお薦めの本が特別に並べられてたりするけれど、そういう例外を除けば図書館の本は基本的にある規則に従って整然と並べられている。そこには余計な飾りがない。一方本屋は、これが面白いとかあれは書評で取り上げられたとか本以外の装飾が多いし並べ方だって結構不規則だ。まあでもこれは商売をしてるわけだから当たり前のことで、本屋で図書館みたいな無機質な並べ方をしても一向に本は売れないだろうと思う。それでもジュンク堂なんかは比較的図書館的な雰囲気で、本棚が整然と並んでいてその中で本が息を潜めているという感じがあって僕は好きだ。そんなわけで大学の図書館なんかは本当に不案内なほど単に本が並べれれてるだけだから、本棚がずらっと並ぶ部屋の真ん中に立ったりすると、僕なんかは背筋がぞくぞくしてくる。おそらくここにある大量の本のほとんどとはめぐり合うことはないだろうけど、もしかしたら一度くらいは素晴らしい出会いがあるかもしれない。そんな若干ロマンチックな想像をしたりしてしまう。

ふと、もしかしたら好きな本屋や図書館の好みは、好きな異性のタイプに通じるんじゃないかと思ったりした。図書館が好きな人は、押し出しの強くないひっそりとして謎めいたタイプの人が好きだとか。でもまあ宣伝やポップがあるから本屋が好きだと言っていた友達も別に押し出しの強い目立ちたがりな女性が好きなわけじゃなかったから、きっとそんなに単純なものじゃないのだろう。まあとにかく、あの静かでひっそりとした大学図書館の地下室に、また行ってみたいなと時々思うのである。
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