あさかめ4回目 『スルー』 演出あいさつ |
地下鉄に乗って窓の外を見ても移り行く景色なんて見えない。真っ暗な闇の中で灰色のコンクリートの壁がものすごい速さで右から左へ過ぎ去っていくだけだ。だから僕はいつも、天井にぶら下がってる中吊り広告を見たり、頭を柔らかくするクイズを解いたりして、それでもまだ時間が余るとまた表情のない窓の景色に目を戻してぼんやりする。そうやって地下鉄の振動に体を任せているとまわりの人々の輪郭も曖昧になり、ただの色の塊になって、僕の中の、この地下鉄に乗っている目的とか、考えなければならないつまらないこととかもぼんやりしていく。地下鉄は終点なんかないみたいにひたすら前へ進む。元の場所に戻るなんてこともなく前へ前へと進む。僕はそのうち、地下鉄がひたすら前進していることと僕との間には、なんの関わりもないんじゃないかって気になってくる。僕の体は地下鉄の振動に合わせて揺れているけど、その揺れも本当は、僕の体がひとりでに揺れだしているだけのことでびゅんびゅん進む地下鉄とはまったく無関係なんじゃないかって気になってくる。もちろん僕と地下鉄が無関係なわけはないわけで、地下鉄が徐々にスピードを緩め、ついには停車し、適当な場所でドアを開け真っ暗闇の中へ僕を放り出したとしたら、僕はその場所にふさわしい振る舞いをするか、あるいは可能な限り自分の欲求に忠実な行動をとるために、努力するしかない。 僕と地下鉄の関係は、人と時間の関係に似てるんじゃないかということをずっと考えながら、僕はこの『スルー』というお話を書きました。 本日はご来場ありがとうございます。ごゆっくりお楽しみください。 児玉洋平 |
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