注:『重力の箱』は3本立て公演であり、パンフレットデザインおよび演出あいさつ文も、3バージョン作成されました。
前半は3バージョン共通で、★印以降は別々です。
あさかめ3回目 『重力の箱』 演出あいさつ |
視界の歪み方。 例えば子供の頃、黒や鉛筆や公園やビルや近所のおじさんや担任の先生や灰色のアスファルトや甘い蜜を吸うつつじが、僕の見ているそれらのものが、そばで遊ぶ友達や歩いている人たちの見ているものと同じなのだろうか、本当に、と考えたこと。 例えば今年の夏、サッカーのW杯で日本代表が試合終了直前、立て続けに3本のゴールを決められたとき、ガムをかみ続けながらグラウンドに立ち尽くしていたディフェンダーの目に映っていた世界は、一体どんな風だったのだろうかと考えたこと。 例えば夏目漱石『それから』で、友人を裏切りその妻を奪い、唯一の理解者であった兄に「お前は馬鹿だ」と罵られた挙句絶縁されたあと、段々と赤く染まっていった主人公代助の視界を目を閉じて想像してみたこと。 自意識、想像力、圧力、状況、感情。歪む原因はいくつかある。では、歪んでからは?それが『重力の箱』について考え始めたきっかけです。視界が歪んでから、人はどう歩いていくのだろう。そう、歩みを止めないというのは最初からありました。多分止められない。ガムを噛むのをやめないように、足は勝手に前に出てしまう。腕も、それにあわせて振られる。変に勢いがついて不自然なくらい振り回してしまうかもしれない。顔は。口とか開いてるんじゃないか。目も半開きで、呼吸だけ妙に浅くて。もしかしたら笑っているように見えるかもしれない。そうやって、視界がおかしなことになりながらも歩くのをやめられない人間の、『重力の箱』は、お話です。 ------------------- ★注:以下、【4階/3階/2階】別となっております。 ------------------- [4階] さて。 『4階の小さな声』は、若い夫婦を中心に展開するお話です。 僕は前回『3か4』でも若い夫婦を主人公にした話を書きました。若い夫婦について考えると、なにか重みのある四角い箱を二人で運び続けているというような想像を僕はします。そしてその箱を運ぶという作業そのものが、紛れもなく愛情であるように思います。けれど時間が経つにつれて、その愛情は変質していきます。二人で運んでいるからなのか、その箱が自分でも相手でもないからなのか。もちろん箱を下ろすこともできます。そうやって二人の関係を終わらせるのは自由です。ただ、僕が興味があるのは、終わりがあろうが続いていこうが、その瞬間彼らはとても真剣だということです。中身もわからない、もしかしたらただ鉛が隙間なく詰め込まれているだけかもしれないその箱を二人はとにかく一生懸命運ぼうとする。『4階の小さな声』はそんなお話です。 では、ごゆっくりお楽しみください。 [3階] さて。 『3階の水槽のパーティー』は、ゲイのカップルを中心に展開するお話です。 二人はとても仲良しです。長いこと一緒に生活しています。一緒に目覚め、食事をし、キスをして、セックスをし、喧嘩をし、仲直りをし、抱き合って、また眠る。二人は本当に仲がいい。そんな二人に、霧のようなものが降りかかります。それが、退屈です。退屈は、二人の動きを止めます。二人はベッドに横たわったまま、少しずつ静かになっていきます。けれど死んだわけではない。だから呼吸はやめません。やっぱりゆっくりと、息をするたび二人の肩のあたりがかすかに揺れます。二人は目を閉じたまま、それでも相手が呼吸をしていることだけは理解してます。二人は、もう、話もせず、抱き合いもせず、ただベッドに横たわるだけ。退屈も、ただ二人の体に降り積もっていくだけ。二人は、とても仲良し。『3階の水槽のパーティー』はそんなお話です。 では、ごゆっくりお楽しみください。 [2階] さて。 『2階の新しい子供』は、会社員とその上司を中心に展開するお話です。 一人の自意識過剰な女がいます。彼女は、うまくいかないなあと思っています。どうすればもっとのびのびと、自由に振舞えるんだろうか。他人に振り回されず、マイペースに生きられるんだろうか。そう考えてます。一人の空っぽな男がいます。彼女とは逆に、彼にはあるべき自分というものがありません。彼にあるのは単純な心と、好奇心だけ。二人は出会い、お互いに憎からず思い、不器用ながらも思いを伝え合います。そんな彼らを取り囲むようにいつでも他人がいます。他人は、彼らは祝福したり、それぞれが持っているお願い事をしたりします。中心にいる二人は、その状況を困惑しながらも受け入れ、考え、それぞれ行動します。そのとき、二人はつないだ手を離さずにいられるでしょうか。『2階の新しい子供』はそんなお話です。 では、ごゆっくりお楽しみください。 児玉洋平 |
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