あさかめ2回目 『3か4』
演出あいさつ
世界中はカップルだらけだ。とまあいきなりなんだか馬鹿みたいなことを断言してしまったわけだけれども、そんなに嘘はついていないと思うし、実際街を歩けば、電車に乗れば、公園のベンチに座れば、プロ野球のナイターを見れば、そこには必ずと言っていいほど恋人同士がひっついたりなんかしていて、その件で多くの人々をイライラさせたりやれやれってことで肩をすくめさせたりしているわけで、僕だって狭い道なんかをまったく周囲を気にせず完全に自分らの距離で横並びに歩いてる男女の様なんかを見ると、ちょ、もう、ほんとどけよ頼むからと心の中でお願いしちゃうんだけど、それでも、そんな恋人たちをどういうわけかああねって感じで許せちゃうときがあって、それは例えば真冬の不意にポカポカと暖かい陽の光が一日中射している日とか、暑い夏の終わり頃に涼しい風なんか吹いて、あ、もしかしてもう秋かもって思わされる日とか、まあ大体天候に左右されるわけだけれど、そんな日は、恋人たちが嬉しそうに、超オシャレとかして、女の子とかとてもかわいらしくて、男の子はなんだかでれっとだらしなくて、みたいな光景を、ああ幸せなんだねとか思って優しい気持ちで見守ることができるのだ。
彼らは、まあ、とにかく笑っているわけだ。二人でいることが幸せで、嬉しくて。そんな彼らの周りには夏の終わりの涼しい風がずっと吹いていて、それはもうほんとずっとで、永遠に止むことはない。涼しい風は、幸せな恋人たちのまわりを吹き続け、少しずつ、彼らの肩や、頭や、耳の先なんかを少しずつ削っていく。長い時間をかけてゆっくり大地を削り取っていくように、少しずつ、けれど確実に、二人の体を削り取っていく。そのうち彼らの形はわずかに変わっていくんだけど、その変化に気付くには彼らの人生は短すぎて、彼らは自分の形の変化に気がつかないまま、それでも幸せなもんだから笑うことをやめない。けれど、ある時、彼らはみつける。向かい合う相手の肩や、頭や、耳の先に、何か細かい塵のようなものがうっすらと積もっているのを。それは、風が削り取った彼らの体の削りカスだ。彼らにはそれが何かはわからない。わからないままで、彼らは相手の体に積もったその塵のようなものを手で払う。風は吹き続ける。塵はいつまでも積もることをやめない。恋人たちはお互いの体に積もった塵をいつまでも払い続ける。笑ったまま。
かいつまんで話すと、このお芝居はそういう話です。
本日はご来場誠にありがとうございます。ごゆっくりお楽しみください。

児玉洋平

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